ゼロトラストセキュリティモデルは、「信頼できるネットワークは存在しない」という前提のもと、すべてのアクセスを検証し、最小限の権限のみを付与するアプローチです。本記事では、AWSにおけるゼロトラストの基本概念、実装方法、ベストプラクティスについて解説します。
1. ゼロトラストセキュリティとは?
ゼロトラストセキュリティ(Zero Trust Security)とは、従来の境界防御型セキュリティとは異なり、内部・外部を問わずすべてのアクセスを検証し、最小限の権限のみを付与する考え方 です。
ゼロトラストの基本原則
✅ すべてのリソースに対するアクセスを検証する(Verify Explicitly)
✅ 最小権限の原則(Least Privilege)を徹底する
✅ ネットワーク境界ではなく、リソースレベルでセキュリティを強化する
✅ コンテキストに基づいたアクセス制御(デバイス、ユーザー、場所など)を適用
✅ 監視とロギングを徹底し、不審なアクティビティをリアルタイムで検出する
主なユースケース
- リモートワーク環境のセキュリティ強化
- クラウド環境でのマイクロサービスの保護
- 機密データへのアクセス制御(IAM + KMS + Secrets Manager)
- 不審な行動のリアルタイム検知とインシデント対応
2. AWSにおけるゼロトラストの実装
AWSでは、以下の主要なサービスを活用することで、ゼロトラストセキュリティを実現できます。
1. IAM(Identity and Access Management)によるアクセス制御
✅ IAMポリシーを活用し、最小限の権限を付与する
✅ IAMロールを活用し、長期間の認証情報を避ける
✅ IAM Access Analyzerを使用し、過剰なアクセス権限を特定する
✅ MFA(多要素認証)を全ユーザーに適用する
IAMポリシーの例(S3への最小権限アクセス)
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Effect": "Allow",
"Action": "s3:GetObject",
"Resource": "arn:aws:s3:::my-bucket/*"
}
]
}
2. AWS OrganizationsとService Control Policies(SCP)
✅ 複数のAWSアカウントのセキュリティ制御を統一
✅ SCP(Service Control Policy)を適用し、不要なアクションを制限
✅ 各アカウントのIAMポリシーと統合し、セキュリティリスクを最小化
SCPの例(特定のリージョン以外でのリソース作成を禁止)
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Effect": "Deny",
"Action": "*",
"Resource": "*",
"Condition": {
"StringNotEquals": {
"aws:RequestedRegion": "us-east-1"
}
}
}
]
}
3. AWS WAFとShieldによるアプリケーションの保護
✅ AWS WAFを利用し、SQLインジェクションやXSS攻撃を防御
✅ AWS Shield Advancedを導入し、DDoS攻撃に対する耐性を強化
✅ AWS CloudFrontと統合し、レート制限やIPブロックを適用
WAFルールの例(SQLインジェクション対策)
aws wafv2 create-web-acl \\
--name MyWebACL \\
--scope REGIONAL \\
--default-action Block \\
--rules '[{"Name": "SQLInjectionRule","Priority": 1,"Action": {"Block": {}},"Statement": {"SqliMatchStatement": {"FieldToMatch": {"UriPath": {}},"TextTransformations": [{"Type": "URL_DECODE","Priority": 0}]}}}]'
4. GuardDutyとSecurity Hubによる監視とアラート
✅ AWS GuardDutyを活用し、不正なアクティビティ(不審なAPIリクエスト、DDoS攻撃など)を検出
✅ AWS Security Hubを使用し、AWS全体のセキュリティ状態を一元管理
✅ Amazon EventBridgeを活用し、セキュリティアラートを自動通知
GuardDutyの検出結果を取得するCLIコマンド
aws guardduty list-findings --region us-east-1
5. AWS VPCのセキュリティ強化(ネットワークレベルのゼロトラスト)
✅ VPCエンドポイントを使用し、AWSサービスへのプライベート接続を確立
✅ セキュリティグループとNetwork ACLで最小限のアクセスのみ許可
✅ VPCフローログを有効化し、不審なトラフィックを監視
VPCエンドポイントの作成
aws ec2 create-vpc-endpoint \\
--vpc-id vpc-abc123 \\
--service-name com.amazonaws.us-east-1.s3 \\
--vpc-endpoint-type Interface \\
--subnet-ids subnet-xyz789
3. AWSゼロトラストのベストプラクティス
✅ IAMの最小権限の原則を適用し、すべてのアクセスを明示的に制御
✅ MFAを全ユーザーに適用し、アクセスキーの長期利用を避ける
✅ VPCエンドポイントとプライベートサブネットを活用し、ネットワークアクセスを制限
✅ AWS WAF、Shield、GuardDutyを組み合わせて不正アクセスを検出・防御
✅ ログ監視を強化し、CloudWatch、CloudTrail、Security Hubでアクティビティを分析
✅ 自動化を活用し、異常検知時にEventBridge + Lambdaで即座に対応
4. まとめ
AWSにおけるゼロトラストセキュリティモデルを適用することで、リソースへのアクセスを最小限に制御し、セキュリティを強化 できます。
✅ IAMのベストプラクティスを適用し、最小権限の原則を徹底
✅ AWS WAF、Shield、GuardDutyを活用し、リアルタイムで脅威を検出
✅ ネットワークとアイデンティティの両面からゼロトラストを実現
次のステップでは、「Auto Scalingを用いたダイナミックなスケール戦略」について詳しく解説していきます!