Webサービスのユーザー数が増加し、トラフィックが高まるにつれて、アプリケーションは単一のサーバーでは処理しきれなくなります。 そのとき必要になるのが、分散システムとスケーリング戦略です。
本記事では、バックエンドエンジニアが理解しておくべき「分散システムの考え方」「水平・垂直スケーリングの違い」「シャーディングやロードバランサーの活用方法」「CAP定理の本質」など、安定性と拡張性の両立に必要な基礎知識を解説します。
1. 分散システムとは?
分散システム(Distributed System)とは、複数の物理的・論理的に分かれたコンピュータやサービスが連携し、あたかも1つの統一されたシステムとして動作する設計アーキテクチャです。
分散システムの目的:
- 可用性(Availability):障害が起きてもシステム全体が止まらない
- スケーラビリティ(Scalability):負荷に応じて処理能力を拡張できる
- フォールトトレランス(Fault Tolerance):一部障害が発生しても影響を局所化できる
たとえば、検索機能やユーザープロファイルなどの処理をサービスごとに分離し、マイクロサービスとして独立運用することで、スケールや保守が容易になります。
2. 水平スケーリングと垂直スケーリング
スケーリングとは、システムの処理能力を増強して、より多くのリクエストやデータを効率よく処理できるようにする技術です。
2.1 水平スケーリング(Scale Out)
- 複数のサーバー(ノード)を追加することで、負荷を分散
- クラウド(AWS/GCP/Azure)で自動スケーリングが可能
- マイクロサービスやロードバランサーと組み合わせて活用
メリット: 可用性・拡張性が高く、障害が起きても他のノードがカバーできる
デメリット: アプリケーションのステート管理やセッション共有が課題になる
2.2 垂直スケーリング(Scale Up)
- 1台のマシンにCPU、メモリ、ストレージなどを追加
- アプリケーションの変更を必要としない
- スケーリング作業がシンプル
メリット: 単一ノードでの性能向上が即時反映される
デメリット: 上限が存在し、ハードウェア障害時の影響が大きい
3. シャーディングとロードバランサー
3.1 シャーディング(Sharding)とは?
シャーディングとは、巨大なデータベースを「シャード」と呼ばれる小さな単位に分割し、それぞれを独立したサーバーで管理する手法です。
- ユーザーIDや地域などに基づいてデータを分散
- 書き込み・読み取りのボトルネックを緩和
- 各シャードが独立してスケーリング可能
注意点: シャードキーの設計が不適切だとデータ分布が偏り、片方のノードに負荷集中する恐れがあります。
3.2 ロードバランサー(Load Balancer)とは?
ロードバランサーは、複数のサーバーにリクエストを分散して、処理の均一化と可用性の向上を実現する装置・サービスです。
代表的なロードバランサー:
- Nginx:OSSのWebサーバー兼ロードバランサー
- AWS ELB(Elastic Load Balancing):マネージド型のスケーラブルな分散処理
- HAProxy:高性能なTCP/HTTPロードバランサー
主な分散アルゴリズム:
- ラウンドロビン
- 最小接続数
- IPハッシュ(セッション固定)
4. CAP定理(The CAP Theorem)
CAP定理は、分散システムにおいて同時に実現できるのは以下の3つのうち2つだけであるという理論です。
要素 | 意味 |
---|---|
一貫性(Consistency) | すべてのノードが常に同じデータを保持している |
可用性(Availability) | すべてのリクエストに対して必ず応答が返ってくる |
分断耐性(Partition Tolerance) | ネットワークの分断が起きてもシステムが動き続ける |
例えば:
- CPシステム: 一貫性と分断耐性を重視(例:RDBの分散トランザクション)
- APシステム: 可用性と分断耐性を重視(例:Cassandra, DynamoDB)
システムの性質(金融/EC/ソーシャルなど)に応じて、どの2要素を重視するかを決めて設計する必要があります。
5. 推奨される学習ステップ
- 水平/垂直スケーリングの違いと使いどころを理解する
- ロードバランサーの種類と分散アルゴリズムを実装してみる(Nginxなど)
- シャーディング設計を考え、データの分割戦略を試す
- CAP定理の選択とトレードオフを議論できるようにする
- 分散DB(Cassandra、DynamoDB)やキャッシュ(Redis Cluster)の構造も並行学習
まとめ
- 分散システムは「可用性・スケーラビリティ・耐障害性」を得るための現代的な設計
- スケーリングには「水平(複数台)」「垂直(強化)」の2方式があり、クラウドでは水平が主流
- シャーディングとロードバランサーを活用してシステム負荷を分散
- CAP定理を意識した設計判断が、信頼性と応答性のバランスを左右する
大規模システムを安定して運用するためには、パフォーマンスだけでなく「構造的な耐久性」を意識した設計が不可欠です。
今後マイクロサービスやクラウドネイティブアーキテクチャに進むうえでも、今回の知識は基盤となるものです。ぜひ、小さなプロジェクトから分散構成に触れてみてください。