Webアプリケーションを運用していくうえで、「動いているかどうか」ではなく、「なぜ遅いのか」「どこで失敗したのか」「何が起きているのか」を即座に把握できる仕組みが求められます。
そのためには、単なる監視にとどまらず、より深い内部状態を可視化できる「オブザーバビリティ(Observability)」の概念が重要になります。
この記事では、バックエンドエンジニアが身につけるべき監視とオブザーバビリティの基礎知識を体系的に解説し、実際の運用に役立つツールと学習のステップも紹介します。
1. 監視(Monitoring)とは?
監視(Monitoring)とは、システムの状態やパフォーマンスを継続的に計測・記録し、異常が発生した際に早期検知・通知・対応するための仕組みです。
監視の対象となる主な項目:
- サーバーリソース(CPU、メモリ、ディスク、ロードアベレージ)
- アプリケーションのパフォーマンス(レスポンスタイム、スループット、エラー率)
- ネットワーク(トラフィック量、接続失敗、DNS遅延など)
- 外形監視(実際にURLにアクセスしてレスポンスを監視)
たとえば、「CPU使用率が80%以上の状態が5分間続いたらSlackにアラートを送る」といった設定で、障害を検知し、速やかに対応できる体制を構築します。
2. オブザーバビリティ(Observability)とは?
オブザーバビリティは、もともと制御工学の概念で、「外部からの観測により、内部状態を把握できる性質」を指します。システム開発においては、単に数値を監視するだけでなく、「なぜそれが起きたのか」を深掘りできる構造を指します。
モダンなオブザーバビリティは、以下の三大柱で構成されます:
- ログ(Logs):イベントの詳細な記録
- メトリクス(Metrics):数値データの時系列分析
- トレース(Traces):サービス間リクエストの流れ
これらを適切に設計・収集・可視化・分析することで、システム全体の挙動とその因果関係を深く理解し、問題を素早く特定できます。
3. ログ管理の基礎
ログは、アプリケーション内やOS、Webサーバー、ミドルウェアで発生したイベントの記録です。
ログの種類:
- アプリケーションログ(例:リクエスト処理、バリデーションエラー)
- アクセスログ(例:nginxやApacheのアクセス記録)
- エラーログ(例:スタックトレース、例外処理)
問題発生時に「何が起きたのか、どの処理で例外が出たのか」を確認するための第一の手がかりになります。
代表的なログ収集・管理ツール:
- ELKスタック(Elasticsearch・Logstash・Kibana)
- Fluentd / Fluent Bit:軽量で柔軟なログ転送エージェント
- Amazon CloudWatch Logs / Datadog Logs:クラウドネイティブな統合ログ管理
ログは「構造化」(JSONなど)して出力することで、後の検索やフィルタリングが圧倒的にしやすくなります。
4. メトリクス監視の基本
メトリクスとは、数値として時系列で記録される情報のことです。CPU使用率、HTTPリクエスト数、エラー率などが代表的です。
メトリクスの例:
- CPU使用率:75%
- リクエスト成功率:99.8%
- 平均レスポンスタイム:320ms
代表的なメトリクスツール:
- Prometheus:オープンソースのメトリクス収集・クエリエンジン
- Grafana:Prometheusと連携し、ダッシュボード形式で可視化
- Datadog / New Relic:SaaS型の統合モニタリングツール
Prometheusでは、アプリケーションにエクスポートされたメトリクスを定期的に収集し、時系列で保存します。
# PromQLの例
rate(http_requests_total{status="500"}[5m])
これにより、突発的なエラーやパフォーマンス劣化のトレンドを素早く把握できます。
5. 分散トレーシングの重要性
分散トレーシング(Distributed Tracing)は、マイクロサービス化が進んだシステムにおいて、1つのリクエストがどのサービスを経由して、どれだけ時間がかかっているかを追跡する技術です。
トレーシングのユースケース:
- APIが遅いが、どの内部処理でボトルネックが起きているか調べたい
- リクエストIDで障害の流れをたどりたい
代表的なツール:
- OpenTelemetry:Google/Microsoftなどが開発する統合トレーシング規格
- Jaeger:分散トレースデータの可視化・検索ツール
- Zipkin:Twitter発の軽量トレーサ
OpenTelemetryを用いることで、ログ・メトリクス・トレースを同一フォーマットで扱うことができ、統合的な観測環境の構築が可能になります。
6. 推奨される学習ステップ
- ログ出力の設計を学び、構造化ログをアプリに実装
- FluentdやCloudWatch Logsを使ってログ収集・可視化を体験
- Prometheus + Grafanaを使ってメトリクス監視を構築
- OpenTelemetryを導入し、トレースIDでリクエストを追跡
- アラート設計やSLO(サービスレベル目標)をチームで定義する
まとめ
- 監視は「異常に気づく」ためのシステム
- オブザーバビリティは「なぜそうなったかを解明する」ための能力
- ログ・メトリクス・トレースを適切に設計・連携することで強固な観測基盤が構築できる
- ツールの導入だけでなく、「どう設計するか」「どう分析するか」も重要なスキル
バックエンドエンジニアとして、観測性の高いアプリケーションを設計・構築できることは、障害対応力と信頼性の大きな武器になります。小さなアプリでも、まずはログとメトリクスの導入から始め、徐々に可視化とトレース設計へと広げていきましょう。